印西の歴史

印西そうふけっぱらのきつねの民話|現代風にわかりやすく

草深とホンドキツネ2007年の印西市西の原にホンドキツネ(©写真AC)を合成してみました

印西市に住んでいて最近よく耳にする「そうふけっぱらのきつね」

タイトルだけでなんとなーくわかる気がするけれど、何のことやらさっぱりという方も多いのではないでしょうか。

そこで、印西市図書館にも置いてある原作や紙芝居から、ざっくりとしたストーリーをわかりやすく現代風にアレンジして書いてみました。

記事公開2021年11月22日
記事更新2023年11月15日
原作とは大なり小なり異なる部分があります。それによって内容の解釈が変わることもあります。
目的はそれとなくのイメージと興味・愛着を持ってもらうことです。
興味があるよ、という方はぜひ印西市図書館で借りてみてくださいね。

解説

そうふけっぱらのきつねは印西町民話集の「光堂の竜」が原作です。
いわゆる人ときつねの物語です。

民話の概要

簡単に言えば、草深には広大な草原や雑木林、森が広がっていて、いたずらっこのきつねがそこを通る人をだましていたという人ときつねのふれあいの話。
私はそこから「人と自然や動物が共生する姿と、きつねがどれほど身近であったか感じ取れるほほえましい時代」として読み取りました。

お話自体はなんてことはないのですが、この民話の延長には奇跡的なつながりがあります。

近年ホンドキツネの姿が

亀成川を愛する会ホンドキツネ©亀成川を愛する会よりお借りしました

近年、実際に絶滅危惧種のホンドキツネが別所・宗甫 (現在の牧の台周辺) で発見されたというニュースを目にした人も多いかと思います。

監視カメラにおさめられたきつねの姿が話題になりました。

今回、周辺の環境保全や自然観察などで活動されている「NPO法人亀成川を愛する会」さんに、「お写真をお借りしても良いですか?」と打診しましたところ、快く許可していただきましたので、掲載させていただきました。

・上の写真は「カメラに映ったホンドキツネ」「巣穴」「ふん」「周辺の草原」です。
・ホンドキツネは2019年頃亡骸を発見したのを最後に、生きた姿を見かけることはなくなったようです。
・近年でもきつねの目撃情報があるようです。

きつねや自然里山について興味がある方は
亀成川を愛する会公式サイト

ジョイフル本田裏2008年2008年牧の原の風景、中央森林部分は牧の原小学校付近

印西牧の原周辺は江戸時代には「印西牧」として存在し、昔から原っぱが広がっていたということですが、千葉ニュータウン事業が滞ったことで奇跡的に最近まできつねが生息していたことがわかりました。

これが当時話題になった「奇跡のはらっぱ」です。

こうして「印西市ときつね」という話のつながりがより派生して広がっているのですね。

牧の原2014年の風景2014年牧の台の風景、キツネの発見場所は現印西総合病院の場所

「本当にまだきつねが暮らしているかもしれない?」という人も、
「もしかしたらきつねどんに騙されていたかもしれない?」という人も、
「いやいや偶然でしょ?」という人も、
きっかけとして、市民にとっては少し夢のある世界ではないでしょうか。

このきつねに関する話を見て、印西の昔や自然に対する目線を少しだけ広げてみるのも良いかもしれませんね。

内容に興味を持ってもらうため、本編はいんざいパルケがかなり言葉を変えてしまっています。あと、もしかしたら間違った部分もあるかもしれません。
興味のある方はぜひ図書館で紙芝居や民話の本を読んでみてください。
また千葉県の公式サイトにも紹介されています。

そうふけっぱらのきつねのお話

これは広~い広い草深原 (そうふけっぱら) がまだ一面雑木林で覆われていたころのお話じゃ。

吉田 (印西市南部) に一軒の菓子屋があったそうな。

菓子屋のおやじは3日おきにてんびん棒をかついで菓子箱を運び、
えっちらおっちら広~い広い草深原を横切り、
木下 (印西市北部のきおろし)まで菓子を仕入れに通っておった。

途中、一軒の農家に「カメ」という一匹の子犬がおった。

菓子屋のおやじは犬が大嫌いじゃった。

そこでおやじはそこを通るたびに菓子やせんべいを犬にあげ、吠えられないように手なづけたそうだ。

 

すると犬のカメはいつしか門の前でおやじが来るのを待つようになったのじゃ。

 

ある秋の日。

 

おやじは木下から菓子を仕入れて帰ってきた。
宗甫 (そうほ現印西市牧の台周辺) を過ぎていよいよ草深原に入るころ…。

犬のカメがおやじを待っておった。
おやじはそれはそれは嬉しくなり、カメに菓子をやると、
カメはおやじの前をてくてく歩きだしたのじゃ。

カメはしっぽを振ってこいこいやっていた。

おやじはずっとカメを追っていった。

 

いつしか日が暮れてあたりは薄暗くなり、とうとう夜に。

カメはまだおやじをこいこい呼んで歩いている。

・・・。

時は過ぎ、まだ林の中。

おやじがすっかり疲れてきたころ、遠くに人家の灯りを見つけた。

そこは伊兵エどんの家。
「これは助かった。一休みできるぞ。」
庭先に菓子箱をおろしたとたんカメの姿はふっと消えてしまったそうじゃ。

なんと…。
伊兵エどんは、疲れて寒さで震えるおやじを家の中に入れ、火をたいてあたためてやった。

「ありがてえ。」
「んでも、伊兵エどんの顔もおかみさんの顔も妙に細長くまるで狐の顔のようだ。」

「やあ~、まいった。こらあ狐の宿さ来ちゃったがな~。」
おやじは思った。

やがてあたりがだんだん明るくなり、夜がすっかり明けると伊兵エどん夫婦の顔は普通の人の顔に戻ってきた。

安心してお茶をごちそうになりながら、おやじは昨日までのことを話した。

伊兵エどんは笑いながら
「いやあ!そらひでえ目にあったもんだなあ。この辺にゃいたずらっこのきつねが住んでっから草深原通る人はよぐだまされんだわ。」

みんなで笑いながら、おやじは家族がいる我が家へと帰っていったとさ。

原話

  • 出典:印西町民話集「光堂の竜」

ひれ~ひれ~あの草深原が、まだいちめん雑木林で覆われていたころの話。
吉田とゆうとごんに、一軒の菓子屋があった。

そん菓子屋の親じは、三日おぎに天びん棒で菓子箱かづって
ぎっちらおっちら、あん、ひれ~ひれ~草深原を横切って
木下っちとごんまで、菓子を仕入れに通った。
ところで吉田がら草深原へ、ちっとへえったとごんに、元屋しきどんとゆう一軒の農家があって、
そこには「カメ」とゆう一匹の子犬がえた。
菓子屋の親じは、犬がでえきれえだった。だけんど、どうしてもそごんとごん通んねと、木下へは出らんね。
そこで親じは、そごんとご通るたび、必ず菓子かせんべをカメにやって、ほえらんねように手なづけた。
カメは、いつんまにか親じの通る時間を覚えてしまい、親じの通るのをちゃんと門先でまつようになった。

雑木林の木の葉も黄色に色づき、すすきの穂も狐のおっぽみたいに白くなりはじめた秋の日のうっすらはださむい日だった。
例によって、親じは木下がら菓子を仕入れてけえって来た。やがて宗甫っちとごんを過ぎて、いよいよ草深原にへえるころおい、おてんとさまはまだ四ひろも五ひろもの高さにあった。

ふと前の方を見て親じは驚いた。カメの奴が、チョコンと道の真ん中にすわって親じをまってるじゃねえが。
不思議に思ったが何時もんように菓子をやって「カメが。よしよし、こごまで迎えに来てくったが」と喜んだ。
カメは菓子をくわえっと、やおら立ってすたすた歩ぎ出した。親じも菓子箱をがづって、威勢よぐ歩ぎだした。
「カメまてカメまて」の掛声でカメのあとについていぐ。

カメは、十メートルさぎ、二十メートルさぎとちょいちょい振りけえっては、尻尾を振ってこいこいやっている。
親じも喜んで「カメまて、カメまて」を繰りけえしながら、いっしょうけんめ、天びん棒のきしむ音に合わせて走った。
いつしか日が暮れて、あたりはすずめ色になってきた。とっくに下草深さ出なくちゃなんねころだのに、まだ林んながを親じは走り続けていた。
とうとう夜んなった。カメは依然として先さ立ってこいこいをやっている。
「カメまてカメまて」の声もかすれてすっかりくたびれちゃったころ、先の方にあがりを見つけた。くたくたに疲れた体にむちうって、ようやぐ人家にたどりついた。
そごは、伊兵エどんのいえだった。庭先さ菓子箱をおろしたとたんカメの姿は、ふっとふっけすように消えてしまった。
家の人を起こして道をきいた。伊兵エどんが見っと顔見知りの菓子屋だ。晩秋の朝明げ前ははだ寒い。「カメまてカメまて」で走り続け、汗だぐの体も休むといっそうさびくなる。ガチガチ歯を鳴らしてふるえている親じを家んながさ入れ、火をたいてあっためてやった。

ところが、親じにはなんとも気がかりなことがもちあがった。伊兵エどんの顔が、妙に長細くまるで狐の顔だ。出て来たおかみさんの顔も、やっぱし細長く狐の顔だ。
「やあ~、まえったまえった。こらあ、狐の宿さ来ちゃったがな」と親じは思った。
しょんべんをするふりして外さ出て、ひさしの柱をなでてみた。丸い。

ながさへって、家の柱をなでてみた。四角だ。二度三度くりけえしてみたが、やっぱし同じだ。「確かに人の家だけどなあ」
とてもじゃねえがお茶はごっつぉになれぬ。
やがて、あたりがだんだん明るぐなって来た。すっと伊兵エどん夫婦の顔も、だんだんみじがぐなって来た。夜がすっかり明げると伊兵エどん夫婦の顔は普通の人の顔に戻って来た。
ようやぐ安心して、お茶をごっつぉんなって、親じはゆんべまでのことを話した。伊兵エどんは笑いながら
「いやあ、そらひでぇ目にあったもんだなあ。この辺にゃ、悪がしけ狐がすんでっから、草深原通る人は、よぐだまされんだわ」
そういって家まで送ってやろが、といってくったが、「もう、だまさんめ」笑いながらことわり、家族の心べぇしているわが家へと帰っていった。

(原話:朝比奈哲)